はじめに
身近にあるダンボール。お世話になっていながら、その存在感(価値感)は薄く、あまりいい印象を持ってもらえていないのではないでしょうか? ダンボール=ダンボール箱のイメージが強いかと思いますが、その素材は多くの特性を持っています。ナチュラルで、暖かみがあり、強度があるのに軽く、加工しやすく、保湿性・吸音性・クッション性もあり、肌に優しく、リサイクル性に富み、その構造はとても美しいのです。
そのダンボールでパッケージの試作をしているうちに切り口の綺麗さと、一般にはほとんど知られていませんが、信じられないほどの強度があるダンボールを知り、魅了され、トリコになり、すっかりダンボールおじさんとなってしまったた今では、「ダンボールに市民権を!」との思いを募らせています。
<切り口の美しさが魅力!>
ダンボール・アラカルト
私が意識してダンボールと出会ってから、そろそろ30年になろうとしています。そのころ、パッケージデザインを中心とし、紙の立体造形の仕事をしていました。そこへ割れ物のパッケージデザインの依頼があり、単純にダンボールを使おうとメーカーに素材のサンプルをお願いしたところ、「どんなサンプルですか?」との問いに「普通のダンボール」と言うと「普通のダンボールはありません」との答え。その後教えを請うたり調べたりし、ダンボールは紙の種類・紙の厚み・古紙の含有量・組み合わせやフルートの違いなど、無限ということが分かったのです。古紙(再生紙)で作られているのがダンボールと思われがちですが、ダンボールは構造体で、紙状であればダンボールができます。身近で気づかないようですが、チョコレー卜やクッキーの詰め合わせにはパラフィン紙(ブーブー紙)でできた片面ダンボールが使われています。
そのほか、上質紙(コピー用紙)・色画用紙や和紙で作られたダンボールがあり、色付きのダンボールは装飾用・工作用として紙を取扱う店で販売されています。
多くのダンボールが古紙を含んだ紙で作られ、よく見かけるみかん箱など箱として使われていますが、建材や車の内装材としても使われています。
ダンボールは約150年前にイギリスで発明され、日本では約100年前に作られました。私が使っている強化ダンボールは、二重構造と三重構造があり、厚みは10oと15o。手で折り曲げることができないほど丈夫な素材です。カッターナイフで切るにはとても大変(腱鞘炎になってしまいます)なので、ジグゾーや電動ミシンノコなどで加工します。
全く木工加工と同じですが、カットするとそれが仕上げになるので加工にはとても神経を使います。
三層構造の強化ダンボールはベトナム戦争がきっかけで開発されたそうです。それは、輸送船から物資をヘリコプターでジャングルの奥地まで運び、着地して荷物を降ろしていたのを、合理主義のアメリカ人は「目的地の上空から落としても壊れない素材を!」ということで、開発したそうです。
特性その1・<強度!>
<ロッキングホース>
ダンボールで最初に制作した作品は、木馬ならぬ段馬です。
見た目はひよわそうに見えるようで、「子供だったら乗れますよね!」とよく言われますが、強化ダンボールで作ったこの段馬(=商品名「ロッキングホース」)、静止過重(ゆっくり上からかけた荷重)では、500s以上、耐えることができます。
フローリングの床や家具に傷をつけることもなく、ぶつかっても衝撃が少なく、安全です。
<バランスブリッジ>
バランスブリッジと名づけた平均台、300sは耐えます。それを4、5本連結したのを、子供たちはおそるおそる渡っていきますが、その足に伝わる感触はとても心地よく、何度も繰り返して渡り、そのうちひっくり返し、シーソーとして遊びだしました。(子供は遊びの天才ですね!)
余談ですが、おもちゃは「工夫」、遊びは「冒険」と、私は思っています。発想を豊かにし、子供の持つ潜在能力を育む為に!
またダンボールは隙間だらけで、「虫などが住み着きやすいのでは!」と言われることがありますが、強化ダンボールの表面の紙は、杉系の木からできていて、樹脂成分も含まれ、虫も住みにくいようで、私は今まで見たことがありません。
<パオハウス>
パオハウスという名のユニットハウス。1枚が三角形と台形で構成されており、3枚で三角形、4枚で四角形、5枚で五角形の家を組み立てることができます。
ダンボールの特性である折ることと、板としての強度も生かして、輪にしたゴムを引っ掛け、簡単に組み立てられて、二つ折りにしてコンパクトに収納できるようデザインした子供の家です。
<花器>
片面ダンボールをテープ状に切り、それをクルクル巻いたものを作品のパーツに合わせ迫り出し、組み合わせて作った花器です。
スパイラルと呼んでいますが、手触りがとてもよく、また形がうまくできなくても何度も創りなおすことができ、陶芸の感覚です。
このスパイラルを無目的に形創っていても、途中でいろいろなアイデアが浮かんできます。
実用品・小物いれ・飾りなどタンボールで思いもよらぬ作品ができます。
特性その2・<構造美>
右から見ると、緑の文字盤ですが…→ 左から見ると、赤に変わりますよ! → 文字盤の拡大写真です。
特性その3・<ナチュラル感>
<ロボット>
御存じのように、一般的なダンボールは漂白をしていません。その色が箱になるとあまり美しく感じられないようですが、展覧会などでは「ナチュラルで暖か味がありますね」という言葉をよく聞きます。ということは、素材としてあまり生かされなかったからでしょう。
タンボールを手にとって見ると、とても感触がよく自然を生かした素材だなと思います。
私自身も感じているんですが、今まで「陰」の存在でしたが、大きな可能性を持った古くて新しいこれから「陽」の当たる素材として、「表舞台」?に登場する作品を創るのが励みとなっています。
最近、八イテクを利用した人間型ロボットが続々創られています。ところが私もロボットをローテク素材で創っています。
彼(今では分身のように思っています)が誕生してすでに成人を過ぎました。頭・手・足が動き、ポーズがとれるだけですが……。でもこのロボットを見て「ホッ」とするのは私だけではないようです。
特性その4・<その他>
<アナコンダ>
今まで制作してきた作品の中で一番大きな作品は、アナコンダ(大蛇)です。
その大きさは高さ4.5mx長さ20mで胴体内が蛇行したトンネルになっており、大人でも通ることができます。
<トリケラトプス>
次が原寸大?のトリケラトプス(恐竜)の滑り台、高さ2.6mx長さ6m(シッポが滑り台)体内には子供が20人ほど入ることができます。
これらは他の遊具と一緒に「タンボールワールド」として美術館・デパート・子供の施設などで遊びの広場として全国で展開しています。
<ペンダント、ピアス>
一番小さい作品は「ピアス」です。耳を飾るアクセサリーです。私もアクセサリーを作るなど思ってもみませんでした。きっかけはアクセサリーをテーマにしたグループ展のお誘いです。
当初、びっくりしましたが、いざ創り始めると、次々にアイディアが出て、楽しく制作ができ、仕上げには漆を塗り、アクセサリーとして価値観を出しました。
おわりに
環境問題を抜きにしてモノを作ることができなくなった現在、ダンボールに対する見方が変わってきたように感じられます。リサイクルという観念が一般的になり、ダンボールがその代表的な素材だからでしょうか。
リサイクルは実生活にかなり浸透しはじめてきたようですが、公害はまだ他人事のような捉えられ方をしているようです。それは日常生活の中から生まれたしっペ返しです。モノは永く大切に使いたいものです
地球46億年育んできた限り有る資源を、人間の叡智と称して、わずか100年で使い切ってしまいそうな勢い、これからは本当の叡智を発揮しなければならない時ですネ!。
人間、手が使えるようになったのは、モノを創るために進化してきたのではないでしょうか。工夫や創造は人間特有の能力です。
生活する上で事が始まる時、「買う」から始まることが多いようです。間違いとは思いませんが、ちょっと工夫をしてみませんか!